坂本誠のフィジカルトレーニング

筋トレとジョグのことをスポーツ科学と現場の視点から書いています

人はなぜ走り出すのか? 〜スロージョギング®︎特別講義 9〜

●移動様式を歩行から走行に切り替えるスピード

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「ランニングとウォーキングはどちらがきついか?」を判定する前に、人がウォーキングからランニングに切り替えるスピードについてお話しします。フィットネスクラブにあるランニングマシンを思い出してください。その上にあなたが立っています。時速3kmという非常に遅いスピードでベルトを回すと、あなたはどうしますか?きっと走るのではなく、歩くと思います。では、そのスピードを10秒毎に時速0.2kmずつ増加させたとします。時速3.2.....3.4.....3.6kmと上がっていきます。するとあなたはあるスピードから走りたくなると思います。この歩行から走行に切り替えるスピードを移動様式変更スピード(PTS)と言います。それを調べた研究がイラストの中にあります。それをまとめると、人は時速5.9~7.6kmの範囲内で走ろうとします。実は調べてみると、肥満者も過体重者も一般人も長距離ランナーもこの範囲に入ります。つまり体力差や体格差は関係ありません(実は私の研究では年齢差も関係ありませんでした)。みなさんもきっとその範囲に入ると予想できます。私のPTSは時速6.2kmでした。先行研究どおりなので面白いです。

 

●人はなぜ走るのか?

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先ほど説明したように、PTSは歩きから走りに切り替えるスピードです。歩けば少し早く感じるし、走れば少し遅いと感じます。謂わば、歩きでも走りでもどちらでもいけるスピードです。ではPTS時に走った場合と歩いた場合の心拍数ときつさ(RPE)はどうなるのか?それを調べた先行研究があります。上の図と表を見て下さい。同じ色の矢印が同じ研究です。赤と青ともに、ランニングの方がウォーキングよりも心拍数は高くなっています(左図)。ところがRPEによるきつさの程度は、ランニングの方がウォーキングよりも低く、楽に感じています(中図)。心拍数は運動強度を表し、酸素消費量が高いことを意味しています。にも関わらず、ランニングの方が楽に感じています。ここに「なぜ人は歩きから走りに自然と切り替えるのか?」という質問の答えがあります。それは「ウォーキングではきついから、ランニングに切り替えてきつさを和らげるため」と考えることができます。PTS時にウォーキングではRPEは12〜13と応えているのに対し、ランニングだとおおよそ10と応えています。ウォーキングの場合、速く歩くと特定の筋肉に負担が掛かり、きつく感じると考えられます。

 

スロージョギングの考案者 田中宏暁教授がスロージョギングを「時速6km未満」、もしくは「歩くスピードで走る」と定義したのは、PTSが時速6kmで生じるという科学的根拠があるからです。データが示す通り、楽に実施できますし、消費カロリーが高いので良いことばかりです。

 

編集後記

3年間続けた学生生活も今日で終わります。早かったですね。いろんなことがあった!いろんな出会いがあった!改めて田中宏暁先生の下でスロージョギングに関する研究で博士論文が書けて良かったです。