WAKEフィジカルトレーニング

ミドルエイジからのワークアウト

ランニング学会in新潟 〜スロージョギングの意義と唯一無二の運動はない〜

ランニング学会のシンポジウムが終了しました。講演でお話したことは数多くありますが、シンポジストとしては人生で初めてでした。私がお話しする内容は「スロージョギングの意義」です。なぜスロージョギングが重要なのか?これからランニングを始める人にどうお役に立てるのか?そういったことをお話しするつもりでまとめました。

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【アブストラクト】

最初に「ゆっくりと走りましょう」と提案したい。しかし、本当にゆっくりと走る人はほとんどいない。ヒトが移動様式を歩行から走行に切り替える速度(Preferred Transition Speed: PTS)は、体力、体格、年齢に関係なく時速5.9~7.6kmの狭い範囲になる。実際に走ろうとするとPTSを越え、仮に低体力者であればそれは激運動となる。そこで意図的にPTS以下で走るとどうか?我々はPTS以下のランニングが同速度の歩行と比べ、運動強度は約2倍増しになるにも関わらず、主観的運動強度(Rating of Perceived Exertion: RPE)によるきつさの程度は歩行と同様にきつくないことを明らかにした。すなわち、体力が低くてもPTS以下であれば、快適に適度な強度でランニングができる。

次に「自然な笑顔で走りましょう」とお薦めしたい。ところが、トレーニング効果があるのか不安視する声がある。走行速度を徐々に上げると、ある速度から乳酸が急増してくる。この急増する速度(強度)を乳酸閾値(Lactate Threshold: LT)と言う。LT強度は有酸素性能力が向上する最小の運動強度と考えられている。したがって、体力を上げるにはLT強度の目安が必要になるが、上述のRPEが頼りになる。先行研究では、ランニング中のLT強度に相当するRPEはほぼ「11=楽である」とある。我々は「自然と笑顔を保ち、楽である」と感じながら走るよう高齢者に促したところ、全員がLT強度を凌駕することを報告した。すなわち、笑顔が自然に保てるランニングでも、有酸素性能力の向上が期待できる運動手法となる。

このような背景から、一般の方に分かりやすく「歩く速度のランニング」、「ニコニコペースのランニング」をスロージョギング®︎と称し、この2つの意義を啓蒙している。スロージョギングには「いつでも、どこでも、誰にでも」出来るように、故田中宏暁教授(福岡大学名誉教授)のアイデアが数多く詰まっている。体力が落ち走ってみようという方は、まずはスロージョギングをお薦めする。そうすれば、すぐにランナーの仲間入りである。

 

他のお二人の先生は、ガチユル走の鍋倉先生(筑波大学)、乳酸研究の第一人者である八田先生(東京大学)でした。お御所のお二方と同等で話をするなど私には到底あり得ません。本当ならば田中宏暁先生があの場に立って、スロージョギングの意義を徹底的にお話しされるはずだったでしょう。そしてもっとドラマチックに話をしていたはずです。私にとっては今後のためにも奮い立たされる良い機会になりました。

私はこの席でお二方の先生が共通に言われていた「唯一無二のトレーニングは無い」との言葉に深く感銘を受けました。情報化社会の中では「最新の運動」とばかりに数々のトレーニング法が紹介されます。しかし、多くの人の問題は、「その最新のトレーニングは身体の何を変えようとしているのか?」が欠けています。しかし、八田先生が言われていた言葉の「ここにいる三人のトレーニング法は違いますが、根底は同じところで繋がっている」が大変印象に残りました。自説を強調するだけの世界とは全く違います。トップを走る先生が、それでも最高の方法と言わず一つの方法として利用して欲しいという言葉は本当に重いです。

運動生理学の根底を見つめながら、「唯一無二は無い」を追求していこうと思いました。

事前のやりとりをさせた頂いた山崎先生、座長の山内先生、シンポジストの鍋倉先生、八田先生ありがとうございました。


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